福岡県議会(平成十八年)九月議会一般質問「食育について」


「弁当の日」の推進

 こんにちは、緑友会・新風の鬼木誠です。今回は食育をテーマとして質問いたします。

 食育という言葉は最近できた言葉のように感じますが、日本では今をさかのぼること百年以上前、明治三十年代の書物から、食育という言葉を見ることができます。また、18世紀のフランスの思想家・ルソーは、「自分たちの食卓に並ぶものがどのくらいの人を通して並んでいるかを理解することが、民主的な主権者を育てるための基礎的な教育課程である」と述べています。このようにずいぶん古い時代から、食の持つ教育効果は指摘されてきたわけです。

 最近ではわが国においても食育基本法が制定され、その推進がまさに図られようとしているところであります。食育には「健全な食生活の実現」「食文化の継承」「健康の確保」「食を通じた豊かな人間性の醸成」などの意義があり、多面的な教育効果が期待されています。

 さてひとくちに食育と言っても、その実践内容が重要です。何をどうやって学んでいくのか、その具体的実践として本日私が推奨するのが「弁当の日」の取り組みです。

 ここでご紹介する「弁当の日」とは、香川県綾南町立滝宮小学校の竹下和男校長が実践した試みです。全国的にも有名な取り組みなので、教育関係者の方々は既にご存知かもしれません。

「弁当の日」と聞くと、給食の代わりに親が作った弁当を食べる日なのかと思われがちですが、そうではありません。「弁当を作るのは子ども、保護者は一切手伝わない」というルールがあります。献立・食材の購入・調理・盛り付けの全てを子どもたちの手で行います。

 もう少し詳しく説明すると、「弁当の日」の対象は五・六年生のみで、調理に必要な最低限の知識や技能は、一学期をかけて五・六年生にだけある家庭科の授業で指導をします。実施するのは十月以降の第三金曜日で月一回、年間で五回となります。

 子どもが自分で弁当を作る、これがどう食育になり、どういう教育効果があるのか、すぐにはピンとこないかもしれません。しかし実際に行われた「弁当の日」では素晴らしい効果が実証されました。

 献立作りから食材購入にいたる段階で、子どもたちはさまざまな学習をします。どの食材にどんな栄養があるのか。どのような献立にすれば栄養のバランスが取れるのか、また見た目に美しい弁当になるのか。それらの食材はどこから来たものなのか。どこでいくらで売られている物なのか。自分で作り自分で食べるからこそ一生懸命に考えます。日頃当たり前のように調理済みで出てくる食事が、実は多くの人々のおかげで成り立っていることに気づきます。

 また実際の調理や盛り付けを体験することで、調理する楽しみや苦労を知ることになります。子どもたちからとったアンケートでは、「毎日食事の準備をしてくれている家族の苦労がわかり感謝しなければいけないと思った」という感想が圧倒的に多かったとのことです。「好き嫌いを言えなくなった」「不満を言わずに食べたい」「ありがとうを言うようにする」「これからは進んで手伝いたい」などなど、言葉は違えど食事を作ってくれた方への感謝の言葉が相次ぎました。これらの子どもたちの反応を見れば、体験というものがいかに大切かがわかります。

 このように、自分の力で弁当を作るという体験により、日々いただいている食事を有難く思う気持ち、栄養のバランスや食の安全に対する意識、自分で食事を作れるという生活力や独立心、など様々な生きる力が育まれるのです。弁当作りが子どもたちの生きる力を伸ばすという考え方について教育長はどうお考えになりますでしょうか。お答えください。

「生きる力」という言葉は、今の教育界のキーワードのひとつとなっています。子どもたちの「生きる力」が無くなっている背景には、大人たちが子どもたちに、やらせるべきことをやらせていない現実、あるいはやらせては失敗を責めて再挑戦する意欲を子どもたちから奪っている現実があるのではないでしょうか。

 親の負担が増える、子どもが怪我をする、家に調理器具がない家庭もある等、「弁当の日」に対する反対理由はたくさんあります。しかし、こうした反対理由の中にこそ、この取り組みを今やらなければならない理由があるのではないでしょうか。子どもを困難から遠ざけ続けることが、子どもに内在する「生きる力」を奪ってきたのではないでしょうか。

 私は、教育する側である大人こそ逃げてはならないと思います。チャレンジする教育がチャレンジする子どもを育むと思います。この滝宮小学校の取り組みも「全責任は自分にある」として取り組んだ竹下校長の覚悟があって初めて成功しました。

 福岡市においては、香椎第三中学校での「手作り一膳」という、子どもによる弁当作りの取り組みがなされているそうです。そこで質問します。弁当作りに限らず、食育には工夫をこらした具体的な取り組みが必要だと思いますが、県下でそうした取り組みをしているケースはあるでしょうか。教育長におたずねします。

 食とは生活の楽しみのひとつであり、コミュニケーションの場でもあります。竹下校長は「弁当の日」を作った一番の目的を問われて、「子どもたちの生活に一家団欒の食事を実現することです」と答えました。「もし全国の子どもたちの全ての家庭で、毎晩家族そろって夕食を食べるようになれば、日本国中の非行は10分の1になる」ともおっしゃいました。竹下校長がやろうとしたことは、「弁当の日」という「食」を通して、子どもを取り巻く環境を少しでも良くしていくことだったのです。

「食」が変われば日本が変わる、極端な話のようですが、こういうエピソードもあります。日本で十人目のノーベル賞受賞者である野依教授は学力低下への対策を記者団に問われて「遠回りのように思えるけど」と前置きして、「家族がそろって、ゆっくり食事をとることです」と答えました。

 さて前語りがずいぶん長くなりましたが、教育長は福岡県における「弁当の日」の実践についていかがお考えでしょうか。お答えください。

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地産地消の推進

 次に、地産地消についておたずねします。

 さきほどお話しましたように、食育を通じて子どもたちの目は社会に開かれていきます。野菜はどこで売られているのか、その野菜はどこで採れたものなのか、同じ種類の野菜なのに値段が違うのはなぜなのか、さまざまな疑問にぶつかるはずです。そこで私たちは子どもたちに食の安全や食へのこだわり、郷土の自然や環境への愛着などを教えなければなりません。

「外見はすこし悪いが安全な野菜」と「農薬たっぷりのきれいな野菜」のどちらを選びますか、という消費者へのアンケート調査がありました。するとアンケートでは「外見はすこし悪いが安全な野菜」を選ぶ人が圧倒的に多いのに、実際に店頭に並ぶと「農薬たっぷりのきれいな野菜」ばかりが売れるという現実があります。店頭では農薬がかかっているかいないか分からないため、結果として消費者は見た目のいいものを選んでいるのです。そしてそのことがますます「農薬たっぷりのきれいな野菜」を流通させることにつながっているのです。

 地元産の、生産者の顔が見える安全な食材を普及させることが、生産者・消費者双方の利益となります。子どもの頃からの学習を通じて地元食材への理解と愛着を身に着けることが、安心安全な地元食材の普及に向けた第一歩になると思われます。日本の農業者がどれほど苦心して農薬使用を減らそうとしているかを理解すれば、子どもたちも地元食材をありがたく思い、おのずと地産地消へと向かうことでしょう。

 学校給食における地元食材の利用状況は先の6月議会でも質問があったところでありますが、地元食材を利用する障害として価格の問題があげられます。安く納入する努力が必要だと思われますが、生産者側としてはどのように取り組んでいるのでしょうか。知事におたずねします。

 また学校側はいつでも価格の問題をことさらに大きく取り上げますが、それもここで立ち止まってご一考いただきたいと思います。全ての家庭にもっとも少ない負担でいきわたらせたいという思いは理解しますが、単に価格の問題だけで捉えるのはいかがなものでしょうか。食の安全や地元農業への理解など、子どもを守り、教えていかなければならないこともたくさんあります。以前学生服の入札の問題でも指摘しましたが、単に価格が高い安いということではなく、むしろ物事の本質やその背景までも捉えた多様な価値判断がなされるべきだと考えます。

 来年は福岡青年会議所でも食育に取り組む委員会ができると聞いています。福岡青年会議所は主に福岡市内で経済活動を営む青年事業者の団体であり、まさに消費者側の団体と言えるでしょう。こうした消費者側からまで積極的な動きが興るほど、食育に対する機運は今高まっています。今がまさにチャンスの時と言えます。生産者側からも消費者の中に飛び込んでいくことが必要です。消費者側へのアピールや交流についての取り組みを知事におたずねします。

 さまざまな教育の問題を考えるたびに「子どもの抱える問題はそれ以前に大人の問題である」ということを痛感させられます。問題として表面に現れる場面では子どもの問題のようですが、その原因の根っこをたどると、大人の意識・行動に起因することばかりです。子どもを良くしたいならば、大人を良くしなければならないというのが私の答えです。

 今回提案した「弁当の日」は、「子どもが変わり、親が変わり、家庭が変わり、学校が変わる」ための取り組みです。そしてその変化こそが現代日本の子どもたちの生活環境を根本から改善していくひとつの突破口になると考えます。

 悲惨な事件が続く昨今の日本ですが、少しでも心豊かな国になっていくことを願いつつ、私の一般質問を終わります。ありがとうございました。

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教育長答弁

弁当作りの考え方について
 各学校におきましては、創意工夫をこらした様々な体験活動を通して、子どもたちに自ら学ぶ力や規範意識を身に付けさせており、弁当の日もその取り組みの一例として効果があると考えています。
 今後もこうした様々な体験活動を通して、児童生徒自ら、思いや願いを持ち、考えたり、工夫したりすることで、課題解決能力や自己の生き方を身に付けさせることができる取り組みを進めてまいりたい。
食育の具体的な取り組みについて
 食育の取り組みは、現在、多くの学校で行われていますが、たとえば、県内のある市では、朝食欠食ゼロ運動の取り組みの中で、月一回、朝食にも利用できるメニューを小学校の給食献立に取り入れたり、保護者への啓発として朝食レシピ調理講習会などを行っております。
 また、地域の生産者の協力を得て、学校の畑でこんにゃくいもを育て、それをこんにゃくに加工し、料理することで、普段食べている食材についての理解を深めさせるといった取り組みを実施した小学校などがあります。
「弁当の日」の実践について
 本県においても、高学年で「自分で作る弁当の日」を実施している小学校があります。
 こうした取り組みを含め、地域の実態に応じた様々な食育の取り組みを行うことは重要であり、県教委としては、今後とも、各学校で創意工夫をこらした活動を行えるように指導・啓発に努めてまいりたい。

知事答弁

地元農産物を安く納入するための生産者の取り組みについて
子どもたちが地元でとれた新鮮で安心な農産物を少しでも多く食べることができるよう、価格が比較的安い旬の農産物情報の提供や直接納入による流通経費の削減、あるいは年間契約により納入価格を抑えるなどの努力が行われています。
消費者に対する生産者の働きかけについて
 直売所の女性グループが学校に出向き、子どもたちや保護者を対象に、みそや豆腐づくりを教えたり、消費者を農村に呼び農作業体験の場を提供するなどの取り組みが進められています。
 県としましても、これらの取り組みが今後さらに広がっていくよう、県民に対する情報提供に努めて参ります。

再登壇(要望)

 知事、教育長、ご答弁ありがとうございました。教育について一点要望を述べさせていただきます。

 質問中でも述べましたが、「弁当の日」を実践することがいかに困難を伴うかについては私も理解しているつもりです。子どもの怪我や火災などひとつでも不幸な事故が起これば大きな責任問題となり、この取り組みが持つ全ての価値が否定されてしまいかねません。

 教育の現場においては思い切った取り組みをするためには相当な覚悟が必要です。今回私は「熱心な教育者を応援したい」「葛藤にゆれる現場の背中を押してあげたい」という気持ちでこの質問をしました。

 特に食育については体験型の取り組みが必要です。自然や生産者とふれあうこと、流通や調理にかかわる人々の存在に感謝することなど、その理解を深めるためには体験が一番です。

 体験させるということには様々なリスクもともなうかもしれませんが、価値ある取り組みには挑戦を認める教育現場であってほしいと要望します。

 以上、要望一点をもって私の一般質問を終了いたします。ありがとうございました。

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